治療院立ち上げ日記 Episode 5.2

最終更新: 9月7日

都内に構えた治療院で施術をする傍ら、これまでの経験を活かして整体スクールで実技指導の講師を務めることにしました。

それは、私の理想とする「教育と臨床の現場をつなぐ」という仕事のあり方に一歩近づいた形でした。


矛盾を抱える業界

鍼灸マッサージの専門学校で教える資格を持つ者が、なぜに民間の整体スクールで実技指導しているのか、疑問に思う方もいるかもしれません。

現実に、これまでにもいわゆる「有資格者」が「無資格者」を指導している例として、大手のリラクゼーションチェーンで実技指導が行われているという話を聞きます。そして、これを批判する方々がいるのも事実です。


日本の法律において、どの部分が重要視されるのか。

いまの時代の流れはどうなのか。

論点は、この2つに尽きると考えています。


現在の医療に関わる法律は、戦後間もない昭和22年に制定され翌23年から施行されました。医師法、看護師法含め、柔道整復や鍼灸、マッサージ師に関わる法律もしかりです。

そして、時代の変遷を経て解釈も徐々に変化してきました。


医師法に見られるように医学部は一定以上の学生を受け入れることができないように定員が決まっています。

それは、医療の質を担保することが目的に入っているのかもしれません。

同様にはり師、きゅう師、マッサージ師もかつてはそうでした。


それが職業選択の自由を背景として、はり師、きゅう師については1998年の福岡裁判によって専門学校の新設が認められるようになりました。

その後、雨後の筍のように鍼灸学校が増加し、鍼灸学校の教育に競争原理がもたらされる結果となりました。この現象を通じて、鍼灸教育の質が下がったという方もいれば、教育という聖域に競争原理が入ることでサービスの質が向上する、という声も聞かれます。

引用:福岡地裁判決が鍼灸教育の質へ及ぼした影響学生や教員の質に着目して(20ページ)


かたやマッサージ師の専門教育については、ある理由のために旧態依然としたままで定員増はありません。

そうこうしているうちに、2013年には経済産業省の主導により「リラクゼーション業」が日本標準産業分類(7893)に新設されるに至ります。

一部のハローワークでは、再就職の支援としてリラクゼーション業に就くための研修を開いているところもあるくらいです。



コロナウイルスによる営業自粛に関してみれば、厚労省管轄の鍼灸マッサージは自粛の対象外となり、経産省管轄のリラクゼーション業は営業自粛の対象となりました。


およそ上の写真を見て、それがマッサージなのか、リラクゼーション業なのか区別のつく方はいないと思います。やっていることは大差ないにも関わらず、両者の違いはどこにあるのでしょうか。


私が講師を始めた理由

なぜ、アメリカは大国たり得たのでしょうか。

それは単に人口が多いという理由が挙げられます。

自由を掲げて移民を受け入れ、(元々はヨーロッパからの移民で構成された国ですから)多くの文化や伝統が入り混じりながら、新しいものを生み出していきます。自由と混沌、そして市場原理が働くなかでアメリカは成長しました。

その正反対の例が、江戸時代の鎖国です。

長崎など一部の門戸が開かれただけで島国を封鎖し、社会的な変化が少なかった時代。この時代に歌舞伎や落語などの伝統芸能が成熟します。


そう考えた時に、指圧やマッサージは一部の伝統芸能と同じでよいのでしょうか。特定の人達の職域を保護する目的で、自ら扉を閉ざし変化を受け入れない業界。今も、そのような景色を垣間見ることができます。

そして、そこにはニッチな需要しか見出すことができません。

必然と「仕事として」その道を選ぶ人の数も限られてしまいます。

いまは日常的に下駄を履かなくなったように、旧態依然とした仕組みの中に留まっているだけでは見向きもされず、業界がジリ貧になっていくことが想像されます。



日本の手技療法という業界においては、前述のような法整備が遅れているなかでリラクゼーション業という職域が誕生したと理解することができます。

そしてそこには、自由の名のもとに人が集まってきます。

いまや療法士(PT、OT、ST)の免許を持つ人たちも「整体」を始める時代です。


古く大正時代にさかのぼれば、療術、活法という日本古来の手技療法がありました。世界に目を開けばカイロプラクティック、オステオパシーなど無数ともいえる治療法があり、かつ一定のエビデンスのもとに国の資格として認められ職業としても成り立っています。

こういった手技療法が陽の目を見ずに世間から置き去りにされていることは、社会的損益を生み出していると言ったら大袈裟でしょうか。


過去の私自身を振り返れば、手技療法の指導において臨床経験が足りない者が教壇に立つことには限界があるのも知っています。



さて、独立を機にどの方向を向いて道を進みましょうか。

組織を離れた今となっては、たかが一介の施術者に過ぎませんが、「教育と臨床の現場をつなぐ」ことが業界の資質を上げることにつながる、という信念を持っています。そして、この業界に身を置く自らも矛盾とジレンマを抱えながら、手技療法を愛して歩んでいこうと決めています。

治療院立ち上げ日記 Episode 5

アフターコロナの治療院のできごとを綴っています

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Episode 5.1

 アフターコロナの治療院と目に見えるもの、見えないもの

Episode 5.2

 矛盾を抱える業界と私が講師を始めた理由


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